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「よみがえれ!浅草田圃プロジェクト」文部科学大臣賞記念座談会


この度、秋葉神社さんご協力のもと行ってきた「よみがえれ!浅草田圃プロジェクト」が、文部科学省「令和4年度 青少年の体験活動推進企業表彰」において、自然や人との関係性を育み子どもたちの主体性を高める試みとして、地域に根付いた継続的な活動であることが評され、文部科学大臣賞を受賞いたしました。「よみがえれ!浅草田圃プロジェクト」は、現在農地0%の台東区に、かつて存在していた田園風景をよみがえらせ、台東区を再び自然豊かなまちにしたいという想いからスタートしたプロジェクトです。今回の受賞にいたるまでの経緯について座談会形式で話を伺いました。


―今回の受賞の瞬間、どんな想いがあったのか伺えればと思います。

白川:受賞の瞬間を皆で迎えたときは、嬉しさとともに「まさか」という驚きが大きかったです。エントリーから本番に至るまで、プロジェクトが始まってからの三年間を振り返る機会となり、これまでの継続した活動があったからこその今回の結果なので、ありがたい気持ちになりました。

矢尾板:受賞の瞬間は驚きでのけぞりました。プレゼンに向けて多くのメンバーの協力があって、前夜も深夜までプレゼン練習に付き合ってくれたり、仲間から大きな力を受け取ってのプレゼンでした。受賞が決まった際には、仲間たちや地域のご家族、そして、私たちを支えてくださる秋葉神社さんや大家さんといった大勢の方の顔が浮かびました。
秋葉神社さんにご報告した際には自分事のように喜んでくださったり、大家さんも「祝杯をあげなきゃ」とお祝いを頂き、たくさんの方とこの受賞を喜べることが嬉しかったです。

―今回の受賞の決め手は、何であったとお考えですか。

白川下町・浅草でゼロからスタートし、地域に根付いた暮らしの中から生まれる活動であること、そして、継続的に子どもたちの探究・実践の場を創造していること、を高く評価して頂いたと感じています。
「子どもたちが日常的に感動したり、体験して次のことに繋がったりという経験が少なくなってきている中で、企業の方が体験の場をつくり、子どもたちの健全育成と明るい未来を目指して活動されている。これが中長期的に続くことを、一母親として願っています。」
審査委員の比嘉里奈氏(公益社団法人日本PTA全国協議会 専務理事)より頂いた言葉です。
また、審査委員の石井直樹氏(石井造園株式会社 代表取締役)からは、「自分たち企業は、一人ひとりが、社会からいただくその道のプロとして、本物の事業・本物の活動を、真の価値として、生徒児童・学生に伝えることができる。」と言葉を頂きました。

矢尾板:プレゼン後の審査委員からのご質問で「活動を通して、子どもたちだけでなく、地域や大人たちにも何か変化はありましたか?」と関心を寄せて頂きました。
私たちの場は、地域社会を舞台にした、はたらく豊かさ・人間性を発揮した生き方の探究といった「リビングラボの場」です。他の発表事例は、一社、一団体の中で完結する活動も多い中、私たちの取り組みには、さまざまな企業や町会の方、学生や本業は異なる会社員、社長さんまで、多様な背景の方が参画していることも他社と大きな違う点だと思います。そして、子どもだけでなく、プロジェクトに関わる大人たちにも、自然や人との関係性から主体的なはたらきが生まれてきました。
特に人と人とのつながりが希薄になっている都市部において、顔の見える暮らしから生まれるはたらきの実践、自分の好きや得意を探求し、誰もが人間性を発揮できる場を創っていくことの重要性を、今回の受賞を経て改めて感じています。

―今回、地域に根付いた取り組みが評価されたということですが、この台東区浅草の町にどんな魅力を感じているのか教えてください。

志村:この町には、地域のつながりを大切にする下町文化が根付いています。私の都会のイメージは、ご近所づきあいがなくて、隣にどんな人が住んでいるのかも分からず、人間関係が希薄になっているというものでした。
実際に台東区ではたらくようになって気づいたことは、商店街や近隣住民の間でコミュニケーションが盛んです。
例えば、田心カフェで残ってしまった野菜を地域のご家族へ差し上げたら、翌日にその野菜を使った料理を持ってきてくれました。また、浅草田圃プロジェクトで残ってしまった田植え用の稲をプレゼントしたら、成長した稲の写真をカフェに見せにきてくれた方がいました。地域とのつながりを個々人が大切にしている所が台東区・浅草の魅力だと感じています。

森脇:この土地が、戦前は豊かな田畑が広がる浅草田圃だったんだ!と聞いたのも、カフェにきてくれた、地域のおじいちゃんでした。
観光地でありながら、地域のおじいちゃんおばあちゃんが若い人たちに、地域文化や野菜の食べ方まで教えてくださる。東京と言えど、下町・浅草だからこその関係性だと思います。

―活動を通して、どういうふうに自分たちや参加者、地域が変わっていったのでしょうか。また、参加者にどういう影響を与えたのでしょうか。

矢尾板私たちは、よき関係性から主体的なはたらき、創造性が生まれてくると考えています。浅草田圃プロジェクトでは、土づくりから、田植え、稲刈り、脱穀と全て手作業で行い、収穫したお米は神社さんへご奉納、約半年間のプロセスを、大人も子どもも一緒になって、ともにはたらき、最後には皆で食卓を囲み自ら作ったお米を頂くのですが、このプロジェクトを通して、人と人のつながり、自然とのつながり直し、といった関係性の醸成を実感しています。
「まちに知っている人が増えることの、安心感。」
二年目より参加されているご家族の言葉ですが、地域の人と人の関係性の醸成を実感するとともに、私たちの活動の意義を再認識した一言でした。
また、自然とのつながりという点では、三年目にしてオタマジャクシが稲のバケツに現れたんですね。「人間は、自然を壊すと言われているけれど、自然を生み出すこともできるんだ!」とメンバーが気づきを共有してくれて、生み出すことのできる喜びを仲間と味わうことができた貴重な機会となりました。
この目に見えない関係性の豊かさを示すものとして、【TJ(田心循環)指数】というのを独自に掲げているのですが、年々出会う虫たちの数も増えて、自然の生態系が少しずつ豊かになっていることも実感しています。

白川:子どもたちの変化という面では、一年目は土に触れることを怖がってお父さんの足にしがみついていた女の子が、三年目には弟を従えてわんぱくに土を混ぜたり、自ら役割を見つけて稲を運んだり、自ら進んで行動するようになりました。そういう意味では子どもの成長に少しでも影響を与えているのかなと思います。また、その成長を地域の皆で喜び合える関係性が出来ていることも嬉しく思います。

森脇:私が印象的だったのは、発達障害のあるお子さんを育てているお母さんです。彼女は、参加する前には「子どもが周囲に合わせられなくて迷惑をかけてしまうんじゃないか。」「子どもが場になじめないんじゃないか。」とすごく心配していました。実際に参加したら、その子は、他の子どもたちと楽しそうに、一生懸命水を運んでいました。その光景を見ていたお母さんが「私自身も先入観であの子を見てしまっていたかもしれない。」とおっしゃっていたのが印象に残っています。学校と家庭、普段の限られた場所を行き来しているだけでは得られなかった気付きが生まれたように思います。

―活動に携わる上で大切にしていることは何でしょうか?

矢尾板:メンバーの”主体性”と、仲間とともに地域とともに、という”多様性”を大切にしています。
私たちの田心カフェも、スタッフは全員ボランタリーで、曜日ごとに店長も異なり“自ら出資し、自ら料理を作り、提供する。メンバーで売上を共有し使い道を決める”ワーカーズコープにも重なる働くかたちで、
今回の受賞も含めて、自分一人ではできないことを、多様な背景の仲間と強みを引き出し合いながら弱さを補い合いながら、やってきています。

多様だからこそ楽しい!はたらくって楽しいんだ!
誰から指示されることなく、自ら土を混ぜたり水を運んだりして、学校も年齢も異なる子どもたちの姿から、大人たちがハッと気付かされることも多いです。
私は、メンバー一人ひとりのワクワク・強みが発揮される場となっているかをみています。誰かのワクワクで他の誰かが心地悪い状態になってはいないか、自分たちの大切にしたいものと外れていないか、そこを整えていく。
いわゆる会社組織とは異なる、ボトムアップの自律分散を基本としつつも、時に“私たちが大切にしたいことは何か?”をメンバーへ問いかけ軌道修正をしています。
お金や効率性に囚われない、つながりを軸においた関係性をいかに育んでいけるか、私たちが重きをおいている所です。

志村:僕は、自分がわくわくすることを大切しています。田んぼプロジェクトの参加者やそのご家族の方に喜んでいただけるのはもちろんのこと、「自分も楽しめている」という部分はとても大切だと思います。
田んぼプロジェクトは、先輩が立ち上げて僕はサポート、その後の2年目3年目を僕が担当しました。2年目は勝手が分からず、「失敗しないこと」を目標に、先輩のやったことをそのまま踏襲しましたが。
3年目は「同じことをやってもつまらないな。」「これだったら自分も参加したいな。」と思ってすいか割りやかかし作り、野菜のかき氷など、色々挑戦してみました。
自分の子どものころの記憶や体験を思い返して、自分がわくわくすることもすごく大切にしています。

―今回大きな節目を迎えましたが、次なる目標や展望についても教えてください。

志村:ここからのテーマとして「リジェネラティブ」を掲げています。
ここまで、自分たち一人ひとりが、地域のつながりを取り戻し、顔の見える“食”・手触り感ある経済を取り戻していこうと、ガーデン(畑)・キッチン(台所)・テーブル(食卓)を基本におき、活動してきました。
台東区を歩いていると、家のベランダにプランターを置いている所が多いことに気づきます。電柱を地下に埋めるまでは、私たちのカフェがある商店街もたくさんの樹木が生えていてとても緑が多かったのだと、大家さんが教えてくれました。大家さん自身も「カッパの皿を乾かさない」プロジェクトを実施し、商店街のお店一軒ずつにプランターを設置したそうです。そんな風に、浅草には身近にある自然を愛でる下町園藝文化が息づいています。
今後の中で、その土地に息づく文化・下町園藝文化を掘り起こし、自然の再生、希薄になった人とのつながりを結び直していく。地域における自然とのつながりがより豊かになっていくことを目指して、現在は地域通貨を仲間と企画しています。

矢尾板「土(Soil)から命(Soul)が生まれ、つながり(Society)が育まれていく。その循環の流れを、地域で子どもたちと育んでいきたい。」そんな場を創れたらと、由緒ある秋葉神社さんへ飛び込んでお願いし、宮司さんとの思いの重なりから、この「よみがえれ!浅草田圃プロジェクト」が実現しました。
そして、三年。まさに「土」から「命」が生まれるプロセスを皆で体感してきました。
そして今、その土壌から、新たな活動が芽生えようとしています。
私たちのメンバーで書道家の彼女を中心に、アーティストの仲間たちと、田心カフェそして浅草田圃のフィールドを、命の“表現”の場へと進化させていこうとアートの日を考えています。「誰もがアーティストである」を合言葉に、誰もがすでに持っている創造の花を咲かせる、人間性を高めていく表現の場を、地域で展開していきたいと思います。

今回の文部科学省受賞に際して、環境・CSR・サステナビリティを掲げるビジネス情報誌『オルタナ』(株式会社オルタナ)さんに取材頂きました。